ローレットの駒(副題:飾り溝のナーリングをなんとかしたい)


始めに
ローレットの駒って、けっこう安いのであまり作ろうなんて考えないですよね。ところが、リールシートの金具なんかの「飾り溝」のなかにナーリングしたいことが良くあったりいたします。もちろん、そういった用途の駒が販売されていないことも言うまでもありません。そんなわけで、この飾り溝にナーリングすることを目的としたローレットの駒を作る方法について考えてみたいと思います。え、「他で紹介されている」って。いや、きっと私のほうが貧乏だから同じことはやりませんよ。

方法の選択
駒は平目なら工機屋で一つ1000円以下で売られております。たいてい工具鋼でできてまして、私の手持ちの物はSKSとハイスのようです。
さて、王道を通る方法でやることを考えてみます。まず、SKSの駒を用意しまして、赤熱してなましてやります。そうすると、刃物で切れるようになりますので、両端を切削して真ん中の部分を残してやります。きちんと糸面を引いてやりましょうね。そうしたら、焼き入れしてやって出来上がりです。余談ですが、間違っても上等な砥石や、上等なバイトでそのまま切るのはやめておいたほうが無難だと思っています。SKSの駒は焼きが戻ってしまいますから、やるならハイスの物ですね。

しかーし、貧乏人の私としては、これはチューニングと言うより「デチューン」したように思えてしまいます。しかるに、あまりにも「もったいない」のであります。なぜなら、そのしてしまった駒は溝の中にナーリングするくらいしかできなくなってしまうからなのであります。個人的はこういうのって「胸がときめかない」ので面白くないのです。せっかく生まれてきたのですから、もっと有効利用してやらなければねえ。

 そんなわけで、ちょっと変わった方法を考えてみます。

ローレットの駒とは?
ナーリングの本質を探ってみますと、そもそも、駒のギザギザを強く押しつけて、そのギザギザをコピーするわけです。んっ!コピー!!そう、駒は自分を相手にコピーします。コピーした物はオリジナルと同じになりそうですね。幸いなことに、ローレットはコピーガードなど存在しないアナログ機器なので、面倒な処理や法律に触れることもなさそうです。コピーしたものをコピーすると少々質は落ちるといった弊害はあるでしょうが、そのへんは深く考えないことにします。

作成方法
用意しましたのは#60の平目の駒です。私の手持ちで一番細かい物です。この細かさがうまくコピーできれば、あとはどうにでもできそうですからこれでトライします。
まずは成形 コピーする相手は12mmのSK3のロッド材です。ミニ旋盤で使うのですから、この程度で充分でしょう。直径が大きいと突っ切るのが面倒ですからね。 ロッド材をチャックにかまして、センターに穴をあけておきます。今回は通常の駒と互換性のある5mm穴の物と、ホルダーを自作する関係で5mm穴のものを作ります。ひとまず外周をひとむきしておいて、駒の形にしていきます。せっかくだから何個も作ってしまいます。
ローレットをかけて 次にローレットをかけます。油をつけてゆっくり回し、ある程度になったらぐっと力をいれてやります。
かえりを取る 転造されました。幅の狭いところにローレットをかけたので、かえりがきつくでて幅が広くなっていますから、なおしてやります。今回は、たくさん切る必要がないので、ヤスリを当てて手直ししました。
このあと切り分けてやります。そして、穴の面取りも忘れずにしておきます。
焼き入れ 次は焼き入れをします。でないと、刃物として通用しません。品物をバーナーでよく赤熱してやります。バケツの底にピントが合ってしまっていますが、ご容赦。色合いはこんな感じになるまであぶるのですが、ここで注意することがありまして、基準は外側のギザギザ部分です。ここの温度が上がれば他はどうでも良いのです。物が小さいので短い時間で済みます。
あかーく良い色になったら、一気に水へつっこんで焼き入れします。
焼きもどし<HTML>

刃物としては、焼き入れしただけでは割れやすいので、また少しあぶってやって焼きもどしてやります。これで、刃物のねばりが出ます。強力な火力は必要ないので、ストーブの上でごろごろしました。
完成した駒とホルダー できあがりました。ついでにホルダーも作ってしまいました。これはシャフトが5mm用でアルミ製です。
なぜに5mmかともうしますと、みがきの丸棒が5mmしかなかったからです。あしからず。
また、駒の交換が楽なように片持ちにしてみました。余談ですが、片持ちのほうが加工には手間がかかるのです。強度を保たねばならないですからね。
こんな感じ この駒を使ってナーリングしてみました。けっこう出来ますね。
拡大図 拡大したところです。一番右が購入した#60のローレット、あとは今回制作した駒です。
右から固定して転造、自動送り、飾り溝中送り、つなぎです。
自動送りである程度の量を転造すると、さすがにずれが気になりますねえ。このへんは駒の幅が0.7mmしかないことに起因していそうです。量をこなす必要がある場合は、幅広の駒を使うとして、少なくとも幅の狭い部分なら問題なく、思ったよりきれいにローレットがけができるようです。
おわりに
このローレットの駒はかなり細い工具ですけど、これなら割れても安心ですね。オリジナルがありますから、いつでも作ることができます。

考えてみれば、溝の中に入れるナーリングなんて、役にたっていないですよね。滑り止めにはなるはずもないし。結局、装飾だけの用途ならば、どんなもんでもいいような気がしています。溝にはすぐ汚れもたまりますしね。


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