流血の惨事

この騒動の時に友人に送ったメールの一部です。







 土曜の夜、男は嘆いていた。自分の愚かさに。
そして、スペースキーが押せないことにいらついていたのだ。
 そもそも、今日、男は自分の仕事場にいた。
長雨のため、できなかった仕事を淡々とこなし、なんとか一段落 ついたとき、時計はすでに5時半を回っていたのである。 男は、食事もせずにこなした仕事に満足し、悦にいっていた。
そのとき、男は思い出したのである。そう、男はひょんなことから 厚さ25mmのケヤキの板を手に入れて、それを車の後部座席にある ことを思い出したのだ。「そうだ、あれを角材にしてしまおう」男は とっさに思った。ケヤキといえば、ちょっとした家具の材料である。そして 値段もけっこうなものだ。厚さがちょうどいいので、リールシートにでも しようと考えていたのだ。これが大きな間違いになることも知らずに。

 ケヤキは硬く、目がつまっていた。丸ノコに案内をつけ、25mmにセット し、コバから1本づつ角材を切り出していった。
ノコ歯は、超硬チップ付きの ブレードに替えてあるので、硬い板もすいすいと切れて気持ちがいい。
角材を15本ほど切ったところで、残りが30mmほどになった。もう手で押さえる ことはもちろん、シャコ万力のつかみ代さえない。男は、丸ノコを裏返して板を乗せ 切り始めた。
不安定なことはこの上ない状態での作業だったが、あと数センチで切り 終えるとこころまでやってきた。しかし、最後の角材は出来上がることはなかった。

 ノコ歯の回転を止めるため、男が木を押さえていた手を離した瞬間、刃物が食い込み 丸ノコがはじけとんだ。放たれた狂気は回転しながら男の左手を襲い、自らのケーブル を切断して息絶えた。男の左手からは暖かい液体が滴り落ち、コンクリートを染めて いく。
「やっちまった」とっさに男は傷口をなめたが、血は次々と涌き出てくる。 血管を切ったらしい。男は傷をタオルで押さえ、高く挙げ続けた。
 30分が経ち、男はタオルをはずした。とりあえず血はとまったようだ。 ゆっくりと手を下ろし、傷口を確認するが、とたんに血が噴出した。 だめだ。医者にいかねば。 男は、滅菌したタオルで傷口を縛り、病院に向かうのであった。